研究概要

環境・エネルギーの革新的新材料の創出(CO2固体吸収材,全固体電池材料の創製)

共有結合性有機骨格(Covalent Organic Framework, COF)は,単位部品となるビルディング・ブロック分子を液中で組み上げて意図した骨格構造と機能を発現させる,近年出現した新しいナノ多孔体材料のカテゴリです.COFはナノスケールの周期構造をもつためアモルファスではなく結晶であり,均一なサイズと性質のナノ孔,高い熱安定性と化学安定性,軽量性,金属を含まない環境親和性をもつことから,現在きわめて広い応用が提案されています.特に重要なのは,原料であるビルディング・ブロック分子の選定時点で発現する機能をある程度予測できる高い物性デザイン性にあります.これらはMOFやゼオライトには無い特長です.私たちはこのようなCOFの高いデザイン性と応用ポテンシャルに注目し,環境・エネルギー問題への応用開拓を進めています.当研究室ではこれまでCOFの合成と応用検討を進めています.既存技術の延長上にない革新的な環境エネルギー材料の開発に興味がある方々の参画をお待ちしています.

COF
COF
COF

フロー熱電発電(対流液冷と熱電気化学発電との統合技術)

多くの場面で「捨てたい熱」が発生しています.エンジンやタービンなどの熱機関,CPUやパワー半導体などの電子素子では,熱効率を上げるため,および材料を熱損傷から守るために冷却が必要であり,例えば人類の発電量の約2%を消費するようになったデータセンターではCPU群の発生熱を速やかに排出する必要があります.一方,熱もエネルギーの一形態ですから,迅速に捨てる必要は認めつつ,これは「もったいない」と見ることもできます.この「もったいない」の根底には,「高温熱源から冷却流体への熱移動は,その熱エネルギーの電気エネルギーへの可換分(エクセルギーといいます)を損失させる行為であり,冷却が積極的なほどエクセルギーは高速に散逸される」という原理があります.冷却は世の中で幅広く行われていますが,その緊急性に隠れ,このようなエクセルギー損失への対処は従来行われてきませんでした.

この「もったいない」の解決の一般論として熱電変換があります.従来,熱電変換の研究のほぼ全ては,固体材料で行われてきました.固体の熱電素子が有意に働くためには,素子の両面間に大きな温度差がついている必要があります.つまり,その後段により大きな熱抵抗(例えば固体-空気の界面)があって,素子の両面間に大きな温度差がつかない場合には,有意に働きません.ところが,「熱電素子の両面間に大きな温度差がついている」ということは,「排熱面に設置された熱電素子が,排熱源と環境との間で支配的な熱抵抗になっている」ということです.これは熱電素子の排熱面への設置が「捨てたい熱」を迅速に捨てる妨げになることを意味し,「子」である熱電素子が「親」であるエンジンやタービンの効率を下げ,冷やすべき機器の温度を上げる矛盾を生じるため,システムとしての正当化が難しくなります(この点の詳しい解説).

しかし,もし液体で行う熱電変換が存在し,それを強制対流冷却に組み込むことができれば,このジレンマの解決が可能と考えられます.液体は熱輸送媒体の役割も担えるため,その適用(=冷却で散逸しているエクセルギーを電力として一部回収すること)と要求満足(=除きたい熱を迅速に除き,対象を冷却すること)とが両立可能になるためです.このとき,排熱面と流動液体の界面に形成される温度境界層において大きな温度差がつくことは,短距離間に大きな温度差をつくこと(熱電発電に有利),および,排熱面における熱伝達率が向上すること(冷却に有利),の二重の利点につながります.一方,従来,冷却と無関係な文脈において「熱電気化学発電」という液体による熱電発電が,積極冷却の義務がない「廃熱」の再利用を目的として,閉じた静的なセルについて研究されていました.

本研究室では最近,世界で初めて,熱電気化学発電を強制対流冷却に統合した「フロー熱電発電」を創出しています.(これは従来なかった新技術なので,名前から当研究室で作っています.)すなわち「冷やしながら発電する」というコンセプトです.最近,私達はこのコンセプトの実証と基礎特性の解明を行いました(2019年11月のプレスリリース).本創出技術は,強制対流冷却に発電機能を組み込むことにより,現状未対処な上述の「強制対流冷却に伴って生じるエクセルギー損失」への解決を与えうる,社会におけるIoT圏の拡大,宇宙への人類の居住圏拡大にも組み込んでゆける,発想の根本的飛躍を伴う新しいエネルギー技術となっています.

私たちが創出したこのような「熱エネルギー再利用発電技術」には今後極めて広大なフロンティアが存在しており,このテーマは伝熱工学,流体工学,電気化学,錯体化学,機械設計を横断する複数の学問をクロスオーバーする新融合領域となっています.本技術は最近注目され始めつつある黎明期にあり,大きな展開可能性をもつ挑戦的テーマとなっています.

Photon Upconversion
Photon Upconversion
Photon Upconversion

フォトン・アップコンバージョン(光エネルギーの普遍的な利用効率向上を行う光波長変換技術)

光は光子(フォトン)という粒からなっています.特に太陽光は再生可能エネルギーの代表的なものであり,脱炭素社会の実現に向けてはその有効利用が課題となっています.光エネルギーは,様々な形態の二次エネルギー(電気,水素,アンモニアなど)の発生に加え,酸化チタンなどの光触媒と組み合わせた場合には抗菌・抗ウイルス・防汚などの環境衛生用途にも利用できるため,特にその高効率な利用が今後の課題となっています.

このように光,特に太陽光は重要な一次エネルギー源ですが,その利用には極めて根本的な制約が存在しています.それは,ある「しきい値」よりも高いエネルギーを持つ光子群(=ある波長よりも短波長側の光)しか利用できない点です.例えば,水分解による水素生成光触媒やCO2を原料として炭化水素生成を行う光触媒が有意に利用できるのは青色より短波長側の部分のみ,植物が光合成を起こせるのは赤色より短波長の部分のみ(緑色は利用不可),などとなります.

フォトン・アップコンバージョン(UC)は,このような制限により「現在未利用で捨てられている光エネルギー部分」を利用可能な波長に変換する「光の短波長化技術」です.最近我々が開発した新材料によって,自然太陽光より低強度な入射光に対しても高い効率でUCが可能となっています(本学プレスリリース日産自動車様リリース日本経済新聞オンライン朝日新聞デジタル日刊工業新聞オンライン).これは我々独自の材料コンセプトの実現により生まれた成果であり,広い応用範囲をもつ光エネルギー利用効率の向上を行う基本技術となります.

私たちは,フォトン・アップコンバージョンの研究を,世界でまだ研究者が5人程度しかいなかった2009年から行っており,これまで多くの成果を得てきています.本テーマは分子配列の組織化(結晶化)と微視的な励起エネルギーの輸送が行える分子設計,材料作製が鍵を握っており,再生可能エネルギーとしての太陽光利用や光触媒・人工光合成技術の普遍的な効率向上を行えるゲームチェンジャーとなりうる極めて革新的な新技術となっています.

Photon Upconversion
Photon Upconversion
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